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見た映画とか円盤とか、読んだ本とか、聞いた音楽とか。備忘録代わり。

Feb 25, 2016

コズモポリス [DVD]

コズモポリス [DVD]

 

a rat became the unit of currency
 (ネズミが通貨の単位となった)

ポロックのアクション・ペインティングに始まり、ロスコのカラーフィールド・ペインティングが幕引きを担う本作は、抽象表現主義さながら、寓意的かつ捉えどころのない台詞と展開で構築されている。
22歳にして人生に疲弊し、28歳をもう若くはないと感じる若者たち、早死の予感、24時間7日間休みなく変化し続ける価値観と情報、世界は資本主義の幽霊に取り憑かれ、焼身自殺よりも過激で刺激的なもの=最新の麻薬を求めて熱狂し、評判は"一語に浮かび上がり、一文字に沈む"。2004年に発表された原作からそのまま流用されたというダイアローグは、驚くほど鮮やかに2012年ないしは2016年現在の世界を映し出すが、それは「窓」ではなく「鏡」であり、覗きこめば覗き込むほど内向きに返ってくる。

外為取引で一財産を成した若き投資家、エリック・パッカー。移動手段であり、権威の象徴であり、オフィスであり、愛人との密会の場であり、食事や排泄などの日常行為、果ては医者を呼びつけてかなり仔細な健康診断をも行い、抽象的には思考器官の一部である白いリムジン=エリックの完結した秩序世界(=コズモポリス)からサイバー空間越しに世界を見渡し、指先一つで巨額の金を動かす彼を関係者らは「預言者」と呼び、彼自身もまたそのことを自負している。
システムへの侵入を皮切りに、俄かに見え始めた破滅の未来にも動じず、むしろ甘受して地獄の釜へと飛び込んでゆくエリック。サングラス、ネクタイ、ジャケット、ボディガード、妻、財産――自殺する人が靴を脱いで揃えるように身軽になって、ついには防弾仕様の車から前世紀様の路地裏へ、エリックを殺さんと待ち構える暗殺者への道を辿っていく。

"Coming from the streets...to Mecca
 Death no matter where you go, come and get ya"

賢しげな単語や持って回った雰囲気は見ていて胸やけものだけど(実際1回目は寝落ちした)、そういった面倒くささに腹を立てながらも惹かれる性癖持ちだから、結果めちゃくちゃ楽しめた。映画サイトのレビューなんかを見ると金融や芸術分野の専門的な話を絡めて深く洞察されてる方もいて、知識があればもっと面白かったんだろうけど。
それを抜きにしても、マチュー・アマルリックポール・ジアマッティの襲撃者2人が笑えるほど役に嵌まっていて良かった。ベクトルは逆ながら、両者の小物然とした薄ら笑いが高尚ぶったおハナシに絶妙な塩梅の毒を添えていて、このためだけでも見た甲斐はあったなーってぐらい。
劇場で予告が流れ始めた頃に原作を覗いて、映画館で見ても頭が追いつかず自滅するだろうなーと敬遠したんだけど、どうやらその判断は間違ってなかったみたい。検索エンジン片手に3回見てまだ処理しきれてないところはあるけど、じっくりしっかり消化していきたいところ。