Daily

見た映画とか円盤とか、読んだ本とか、聞いた音楽とか。備忘録代わり。

Feb 26, 2016

 

ブルーバレンタイン [DVD]

ブルーバレンタイン [DVD]

 

とある夫婦の、始まりと終わりの物語。
美しいばかりの過去と、倦怠期から抜け出せず互いに傷つけ合いながら落ちてゆくばかりの現在とを並行して描き、苦い後味をエンディングの花火でカタルシスへと昇華させる構成もさることながら、そこに説得力を添える主演2人の演じ分けがとにかく素晴らしかった。

個人的に二回目の鑑賞を躊躇う映画ぶっちぎりの第1位「ゴーン・ガール」では、結局ニック(夫)にも"アメイジング・エイミー"の一登場人物足り得る素質が備わっていて、2人は同じ穴の狢だったということが物語を通して証明されるが、それとは逆のベクトルで、シンディとディーンは生まれも、結婚に対する考え方も、将来観も、生き方も、まるで全てが違うのだということが、何気ないやり取りや台詞の中で証明される。
両親不在のまま育ち、結婚生活にある種ロマンティックな幻想を抱いているディーン。一方でシンディは父親から母親への家庭内暴力を目の当たりにしながら育ち、恋だの愛だのにはすっかり幻滅しきっている。「子供のため」を思えば思うほど、各々が出す結論の溝は広がってしまうという設定の妙がまた秀逸で、切ない。

(過去パートの)ライアン・ゴズリングミシェル・ウィリアムズが美男美女という点を除けば、普遍的でありふれた、誰の琴線にも触れる部分のある恋愛映画だと思う。私的には、こんな良い人を好きになれなかったらおかしいしもったいないというズレた認識でお付き合いした(結果的に大爆死することとなった)人とディーンがオーバーラップして、シンディの態度は確かにひどいけど、分からないでもないなあってジレンマを抱きつつ見てた。サンダンスやカンヌへの出品も納得の、というかもっと賞レース関係で持て囃されるべきだったのでは?と疑うぐらいの良作。

Feb 25, 2016

コズモポリス [DVD]

コズモポリス [DVD]

 

a rat became the unit of currency
 (ネズミが通貨の単位となった)

ポロックのアクション・ペインティングに始まり、ロスコのカラーフィールド・ペインティングが幕引きを担う本作は、抽象表現主義さながら、寓意的かつ捉えどころのない台詞と展開で構築されている。
22歳にして人生に疲弊し、28歳をもう若くはないと感じる若者たち、早死の予感、24時間7日間休みなく変化し続ける価値観と情報、世界は資本主義の幽霊に取り憑かれ、焼身自殺よりも過激で刺激的なもの=最新の麻薬を求めて熱狂し、評判は"一語に浮かび上がり、一文字に沈む"。2004年に発表された原作からそのまま流用されたというダイアローグは、驚くほど鮮やかに2012年ないしは2016年現在の世界を映し出すが、それは「窓」ではなく「鏡」であり、覗きこめば覗き込むほど内向きに返ってくる。

外為取引で一財産を成した若き投資家、エリック・パッカー。移動手段であり、権威の象徴であり、オフィスであり、愛人との密会の場であり、食事や排泄などの日常行為、果ては医者を呼びつけてかなり仔細な健康診断をも行い、抽象的には思考器官の一部である白いリムジン=エリックの完結した秩序世界(=コズモポリス)からサイバー空間越しに世界を見渡し、指先一つで巨額の金を動かす彼を関係者らは「預言者」と呼び、彼自身もまたそのことを自負している。
システムへの侵入を皮切りに、俄かに見え始めた破滅の未来にも動じず、むしろ甘受して地獄の釜へと飛び込んでゆくエリック。サングラス、ネクタイ、ジャケット、ボディガード、妻、財産――自殺する人が靴を脱いで揃えるように身軽になって、ついには防弾仕様の車から前世紀様の路地裏へ、エリックを殺さんと待ち構える暗殺者への道を辿っていく。

"Coming from the streets...to Mecca
 Death no matter where you go, come and get ya"

賢しげな単語や持って回った雰囲気は見ていて胸やけものだけど(実際1回目は寝落ちした)、そういった面倒くささに腹を立てながらも惹かれる性癖持ちだから、結果めちゃくちゃ楽しめた。映画サイトのレビューなんかを見ると金融や芸術分野の専門的な話を絡めて深く洞察されてる方もいて、知識があればもっと面白かったんだろうけど。
それを抜きにしても、マチュー・アマルリックポール・ジアマッティの襲撃者2人が笑えるほど役に嵌まっていて良かった。ベクトルは逆ながら、両者の小物然とした薄ら笑いが高尚ぶったおハナシに絶妙な塩梅の毒を添えていて、このためだけでも見た甲斐はあったなーってぐらい。
劇場で予告が流れ始めた頃に原作を覗いて、映画館で見ても頭が追いつかず自滅するだろうなーと敬遠したんだけど、どうやらその判断は間違ってなかったみたい。検索エンジン片手に3回見てまだ処理しきれてないところはあるけど、じっくりしっかり消化していきたいところ。

Feb 24, 2016

 

ラスト・ターゲット [Blu-ray]

ラスト・ターゲット [Blu-ray]

 

伊達男ジョージ・クルーニーが段々とゴルゴに見えてくる不思議。

相変わらずアントン・コービンの切り取る映像が美しく、ドンパチの少ない、ゆるゆる~っとした展開も手伝って(前日の「サウルの息子」の反動もあったんだろうけど)ぬるま湯の中で甘やかされているような気持ちで観了。

Feb 23, 2016

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SAUL FIA 107min

監督はタル・ベーラに師事していた、という枕詞に惹かれて観に行ったものの、どちらかと言えばアレクセイ・ゲルマンが提示してみせた混沌を混沌として映像化する手法に近いものがあって(野放図に混線する誰彼の声、言葉でも絵でも説明が為されないまま進むストーリー、そして結局は明かされない意味深な台詞たち、把握しずらい画面、人の尊厳?何それ美味しいの?状態など)、つまりは地獄のような107分だった。
そもそもホロコーストで実際に行われていたこと自体があらゆるフィクションを上回るので、正しいと言えば正しい表現、なのかもしれないけど。

「神々のたそがれ」のパンフレットで沼野氏が、"この映画を観ることは、人生にとって大きな事件であり、体験でもある"と表現していたが、まさに「サウルの息子」もその類の、恐怖や狂気といった負のパワーを容赦なく叩きつけ、強制的に追体験させてくれる映画だ。さらに性質が悪いのは、風刺の要素も入れ多少は笑いどころのあったアレクセイ・ゲルマンと違い、極限までそぎ落とされたシンプルな映像が思考の逃げを許さず、目を閉じ耳を塞いで鑑賞を放棄しない限り、喉にかかった圧力が緩むことがない。
理解力がない、集中力が続かない、精神的打撃への耐性が薄い、の三拍子が揃っていながらこういった地獄に進んで炙られたがり、その後味が大好物という悪癖を持つ私にとって一度目は映画館=逃げられない状況でというのは必須だったわけだけど、本気で途中退出しようと思ったのは本作が初めてで。ただ昨今の情勢を鑑みると、例え平和という幻想を(かろうじて)抱けている日本人であっても見ないという選択肢もないと思う。怪作。

Feb 21, 2016

 

ある結婚の風景 オリジナル版 【HDマスター】 Blu-Ray

ある結婚の風景 オリジナル版 【HDマスター】 Blu-Ray

 

"人間は孤独から絶対に逃れられない。いいことが起きるのはたまたまに過ぎない。だが孤独は永遠につきまとう。人との絆は、宗教や政治や愛がもたらす。
幻影だよ。どこまでも孤独なんだ。それを認めず"本当の絆"があるはすだと思い込んでる。そんなのは幻さ。"